● 食事中の嚥下前後と唾液による誤嚥を予防する完全側臥位
福村直毅医師は、2007年に鶴岡協立リハビリテーション病院在職中に完全側臥位法を発見し、治療に導入し鶴岡市では肺炎死亡率が低下した。2015年に健和会病院に移り、長野県飯田地区を中心に最新の嚥下治療が全国に広がっています。
しかし、従来の考え方に横になって食べる嚥下治療はないこと。横になると誤嚥するという根拠のない考え、行儀が悪いという習慣などから完全側臥位法の導入に抵抗感を示す医療従事者が多くいるのも事実です。不公平な嚥下治療格差が無くなることを願い完全側臥位法の正しい情報を発信します。
● 完全側臥位法の定義
完全側臥位法(complete lateral position)を定義すると「重力の作用で中~下咽頭の側壁に食塊が貯留しやすくなるように体幹側面を下にした姿勢で経口摂取をする方法」
完全側臥位は、臨床的に多数見られる偽性球麻痺タイプの患者に有効です。
嚥下運動以外の時間に、口腔~咽頭~食道へと食材・唾液がどこをどう流れ、安静時に食物・唾液がどこにどう貯留するのか、そしてその貯留が誤嚥につながらないのかを考えることが重要です。
● 嚥下前後の空気と食材・唾液の流れ
空気は、鼻腔、口腔と気管の間では抵抗が低い咽頭正中を通って流れる。気管と食道は隣り合わせにある。通常、食道は閉塞状態で食材・唾液が流れ入ることはない。嚥下反射があって初めて、食道入口部が開き食材・唾液が食道へ入る。つまり、嚥下反射が起こるまで、空気は自然と気管に入る構造になっている。気管は管状で気管の前にある喉頭は、喉頭蓋、披裂喉頭蓋襞(ひれつこうとうがいひだ)で食材と唾液の侵入を防いでいる。さらに声門が閉じて食材と唾液の侵入を防ぐ構造をしている。
一般的な座位では、咽頭・喉頭が立ち上がり食材は梨状窩に貯まる。梨状窩の容量を超えると披裂喉頭蓋襞の披裂間切痕から喉頭侵入し誤嚥に至る。
完全側臥位では食物は中咽頭レベルで咽頭側壁に沿って流れる。そして中咽頭~下咽頭にかけて貯留する。中~下咽頭の容量を超えると披裂喉頭蓋ひだを超えて喉頭侵入するが重力方向が側方に働くため、容量が増え声門を越えるまでは誤嚥しない。
(詳しくは、「役立つ嚥下治療」エッセンスノートを参照)
● 喉の構造が理解できれば、安全な嚥下ができる
透明咽頭モデル「トラピス」は、嚥下治療を考えるために作られました。
トラピスとは・・・トラピス=TRAPIS(Transparent Pharynx for invisible side の頭文字)であり、「見られない側の為の透明な咽頭」の意で、これまで見る事の出来なかった咽頭の仕組みを透明なモデルで再現する事により、咽頭の仕組みをより深く理解し、問題解決に繋げていってもらいたいという思いが込められている名称となっています。
嚥下前に食材が溜まる場所は、喉頭蓋谷と梨状窩です。
30度仰臥位では、梨状窩に3ccほど、飲食物が貯まる。
完全側臥位では、咽頭側壁から梨状窩にかて20㏄ほど貯められる。
● 完全側臥位法の代表的な嚥下機能代償能力
完全側臥位は、ベッド面に対し、両肩を結んだ線と骨盤が垂直になる姿勢です。
姿勢保持ポイント
・咽頭側面が真下に保持できるようにすること。
・背中側へは崩れさせない。
・肩のラインと骨盤が垂直に保てるように整える。
・枕は顔を上向きにした状態を保てるようにする。
エッセンスノートP137参照
● 完全側臥位の作り方
社会医療法人健和会 健和会病院 摂食・嚥下障害看護認定看護師 福村弘子看護師の協力のもと、一般的な完全側臥位姿勢の調整手順を説明します。
腕の位置を整える。
足底に手を添え、膝を立てる。
膝を支えながら骨盤を立てる。
骨盤の下に手を入れて抱え、持ち上げずに引き寄せる。
枕ごと頭部を前に持っていき背中を丸める。
頭が水平になるように枕の高さを調整する。
足の間にクッション、手にクッションを抱える。
上の足を前に出す。
両肩と骨盤を垂直に立てる。
食事は斜め45度下に置く。スプーンは食べやすい用に曲げる。
咽頭に溜まった食物を水またはとろみ水に置き換える。フィニッシュ嚥下。
はじめに水分で口の中を湿らす。
スプーンを回転させて、口の中にいれる。
食事の最後はフィニッシュ嚥下。
● 完全側臥位の姿勢調整動画
完全側臥位で食事をするときの注意点を4つのビデオで紹介します。
ワイド1.完全側臥位の姿勢調整方法 完全側臥位支援クッション(ピタットくん90ワイド)の調整
3分36秒
2.頸部回旋の調整方法 ふたこぶラックンの調整方法
2分45秒
頸部回旋で飲み込める症状
3.自分で食べる(自力摂取)ときの注意点 2分55秒
片麻痺でも動く腕を上にすれば、自分で食事が取れる方法です。
健側側(麻痺のない方)を下にし
食物がのどを通過するのを感じながら食べる健側傾斜姿勢の場合、
自分では食べられません。
最後に、咽頭側壁に溜まっている食材を水またはとろみ水に置き換えるフィニッシュ嚥下をして下さい。
4.食事介助する時の注意点
3分6秒
完全側臥位で、食事介助をするとき介助者が患者さんに対して45度の位置に座ると、口の中が見やすく食べ
させやすくなります。
最後に、咽頭側壁に溜まっている食材を水またはとろみ水に置き換えるフィニッシュ嚥下をして下さい。
● まず横になってみませんか
もうお分かりですよね。
横になって食べてもむせない。誤嚥しないことを。
(症状・病状により100%全員が誤嚥しないわけではありません。)
まず、介助者やご家族が横になって水またはとろみ水を飲み込んでください。
飲み込めましたか。むせましたか。
まず横になって食べてみてください。
ご家族に、患者さんに食べさせてください。
サポート1、完全側臥位で食べられる方法を伝えるDVD
紹介した4つの動画に、7つの動画をたした合計11個の動画を収録したDVDであなたやあなたのご家族をサポートします。
安全に口から食べられる食事と唾液による誤嚥性肺炎を予防する動画です。
1.完全側臥位姿勢調整(ピタットくん90ワイド) 3m35s
2.完全側臥位食事介助 3m5
3.完全側臥位自力摂取 2m54s
4.完全側臥位頚部回旋(ふたこぶラックン)2m45s
5.前傾座位姿勢調整(ラーメンをすする姿勢) 5m9s
6.回復体位調整(唾液誤嚥予防姿勢) 3m3s
7.唾液誤嚥について 34s
8.唾液の色について 2m12s
9.ふたこぶラックンの使い方 3m50s
10.ピタットくん90ワイドの使い方 1m26s
11.回復体位クッションの使い方 3m15s
監修 社会医療法人健和会 健和会病院 摂食・嚥下障害看護認定看護師 福村弘子看護師
監修 社会医療法人健和会 健和会病院 総合リハビリテーションセンター長 福村直毅医師
製作(株)甲南医療器研究所 前田悟
サポート2、安全に食べられる食事枕 ふたこぶラックン
完全側臥位で安全に口から食べられるのどを食事中に保持するための枕。個人用のパーソナルふたこぶラックンと病院・施設用のメディカルふたこぶラックンを用意しています。
枕本体は次亜塩素酸消毒可能・タオルは洗濯可能 個人用ふたこぶラックン 誤嚥しにくい安全なのどを食事中の20~30分保もち誤嚥性肺炎を予防します、
枕本体とタオル両方とも次亜塩素酸消毒可能な病院・施
設用ふたこぶラックン 誤嚥しにくい安全なのどを食事中の20~30分保もち誤嚥性肺炎を予防します。
サポート3、背中を倒れにくくする背あてクッション ピタットくん90ワイド
背中が倒れると誤嚥リスクが高まる。シート部分を体の下に敷き自分の体重が重しとなってずれにくくなる。大粒のビーズが腰からひざにかけてしっかりとサポートしてくれます。
サポート4、手と足を乗せるだけで唾液誤嚥予防ができる 回復体位クッション
完全側臥位法の情報を発信するのに多大な協力をいただいた
社会医療法人健和会 健和会病院 総合リハビリテーションセンター長 福村直毅医師
社会医療法人健和会 健和会病院 摂食・嚥下障害看護認定看護師 福村弘子看護師
に感謝いたします。 株式会社甲南医療器研究所 代表取締役 前田悟
【ご家族の体験談】
緊急搬送された直後から、絶飲食となり
絶飲食後237日ぶりに口から食べる喜びを取り戻すことができた。
同じ悩みや苦しが完全側臥位でなくなることを願い写真と動画を提供していただきました。
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