「切なる願い☆」

平成31年2月24日

食べたいと望まれていたのに、その願いが叶わずに亡くなられた方々のお話を耳にします。
その方はどんなにか苦しかったことでしょう…そして残されたご家族の悲しみの深さを思うと胸が締め付けられます。
1日も早くこのような思いをする方々がいなくなってほしいとこころから願います。

父の入院していた当時のことを思い出します。
私たちもどうすることが父にとって良いのか迷い、悩み、葛藤し、とても苦しい思いもしました。
父を急性期病院に救急搬送した時は、病院に行くということ=延命処置をすることになるとは考えていませんでした。
処置室から経鼻胃管をされて出てきた父を見て、とてもショックを受けました。
当初主治医の先生は、4週間ほどで外れますからとおっしゃってくださったのでそれを信じて「ほんのすこしの間だから…ごめんね」と父に伝えていました。
外れると思っていた経鼻胃管は4週間経っても外れることはなく、3か月が経過しました。
その間に父はやせ細り、表情をなくし、せん妄を見るようになり、一点を見つめて声を掛けても反応しないことが多くなって、肉体的にも精神的にもギリギリに感じました。
生き地獄のような日々に、父のこころが壊れてしまうのではないか…このままただ命を永らえさせるだけの延命治療をして父の苦しみを長引かせるようなことはしたくない…もう家へ連れ帰って看取ることにしよう、何度もそう思いました。
石飛先生の平穏死のことが書かれている本や胃瘻についてや終末期について書かれている本を6冊ほど読みました。

父は入院中、毎日のように「食べたい、飲みたい」と言っていたので、その望みを叶えてあげたくて一縷の望みをかけてリハビリ病院に転院しました。
急性期病院よりも積極的なリハビリをしてくれたので、ここならきっと大丈夫、食べられるようになるかもしれないと希望が膨らみました。
でもしばらくして検査の結果、主治医の先生から「誤嚥性肺炎になるリスクが高いから食べさせることはできない。もうこれ以上リハビリをしても回復は見込めない」と治療の打ち切りが言い渡されました。
医師からそう告げられた時、とても大きなショックを受けました。
リハビリをがんばればきっと食べられるようになると信じて、懸命にリハビリをしていた父にそのことを伝えることなどできませんでした。

死を迎える過程で自然に食物を口にしなくなって命が尽きていく、そうした自然の流れなら受け入れることはできますが、こんなにも「食べたい、飲みたい」と言っている父が、誤嚥性肺炎のリスクがあるから食べてはいけないという、医師からの説明はとても納得できるものではありませんでした。
食べられないのだから胃瘻にしたらいいとさらりと言う看護師さんの言葉にも、私たち家族の思いとのギャップを感じました。
主治医の先生や看護師さんから見た父にとっての最善は、父や私たちが望んでいることとはかけ離れたものでした。

父には「あれが食べたい、これが食べたい、喉が渇いた、おなかがすいた」と食べる意欲がありました。
父の気持ちを尊重してほしい、声を聞いてほしい、望みを叶えてあげてほしいと何度お願いしてもダメでした。

今、私がどう判断し、どう動くかで父を良い方向にもそうでない方向にも向かわせてしまう可能性がある…命の重みを感じて、どうしてあげることが父にとって幸せなのかを毎日考えました。
母と兄ともたくさん話し合いました。

父は、生きている時間をただただ引き延ばすことを望んでいませんでしたし、私たちも「食べたい」という父の意思を尊重して、こころや魂が満たされるようにしてあげたいと思いました。

そんな私たちの気持ちは取り残されたまま、病院の方では退院に向けて日程が組まれていきました。
切羽詰まった思いがしました。
立ち止まっている時間がないので、退院するまでになんとか父が食べられる道を探そうと決心して、必死に探しました。
この頃、小山珠美先生の「口から食べる幸せを守る」いう本を読んで、父もきっと食べられる道がある☆と、とても勇気をもらいました。

そのような中で幸運なことに、こちらの会社の前田さまに福村先生とのご縁を繋いでいただいて父は救われました。
もし福村先生と出逢わせていただけてなかったらどうなっていたことかと、想像するだけで苦しくなります。
福村先生に嚥下治療をしていただけていなかったら父は口から食べられることなく、もうこの世にはいないかもしれません。
もしそうだったなら、一生消えない痛みを胸に抱えていたことだと思います。

人生の幕をどのように閉じていくのかはその方その方にとって、とても大切なことです。
そして家族にとっても、その時期に何かしてあげられることは、その後の人生に晴れやかな想いを持ち続けていけることに繋がっていく大切なことだと思います。

病院や施設で『誤嚥性肺炎のリスクが高まっている方は、完全側臥位で食事をしてみましょう、唾液誤嚥の可能性がある方は、回復体位で過ごしてみましょう』
そんなふうな試みをしてくださったなら、お口から食べることをあきらめずに済む方々がたくさんいらっしゃるのではないかと思います。
そして救われるのはその方の身体だけでなくこころも、そしてご家族も救われます。
何かしてあげられた、試してもらうことができた☆そう思えることは残される家族がこれから生きていく上で慰めになることと思います。
このような嚥下治療が当たり前になってほしいと思います。

福村先生と弘子先生がご尽力してくださっているおかげで今、たくさんの医療従事者の方々が嚥下治療を学んでくださって、病院や施設で取り入れてくださっていることに感謝しています。

中心にいらっしゃる福村先生と弘子先生の真っ直ぐな思いは、多くの方々の胸に響き、誰もが適切な嚥下治療をしていただける未来がきっと来ると信じています♡