「食事姿勢再考」

なぜ座って食べるのか。なぜ背筋を伸ばすのか。なぜ顎を引くのか。

健康のために、という人もいる。いろいろな理由が挙げられている。背筋の筋緊張を落とせる、腹圧を上げないですむ、などである。

しかし動物で背筋を伸ばして座って食べるものはない。そもそもヒトの機能は座るようにできていない。不自然な姿勢を正当化するために理由を作り上げてはいないだろうか。シャーロックホームズはボヘミアの醜聞の中で言っている。「資料もないのに、理論的な説明をつけようとするのは大きな間違いだよ。人は事実に合う論理的な説明を求めず、理論的な説明に合うように、事実のほうを知らず知らず曲げがちになる。」

健 康をどんな指標で測ればよいのだろうか。食べる姿勢の優劣をどうやって評したらよいのだろうか。どんな切り口で評しても群網像をなでるがごとくその本質に 迫ることはできないのかもしれない。それでも、目の前で食べられない人がいて、のどを詰まらせそうな人がいて、その人が安心して食べられる姿勢というの は、その瞬間において最良の一つではないだろうか。

先に答えを決めてはいけない。必要な情報がそろうまでは断定してはいけない。わからないことを素直に認め、情報を収集し、分析し、「不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる」。

 

完全側臥位法はそういった論理的思考の一つの帰結である。我々が導入する方法は完全側臥位法だけではない。一見奇妙であっても、安全でその方の命を守ることができる方法がある。どんな回復の可能性も捨てず、一つの方法に固執せず、健康な食事とは何かを考え続けていこう。

                                                                                                                   福村直毅