「皆さん初めまして。今回から飲み込みの治療(嚥下治療)の考え方を解説させてもらいますリハビリテーション医の福村と申します。特にうまく食べられない方々にとって有益なお話ができるよう心掛けてまいります。
1回目は嚥下治療のキーとなる手技、完全側臥位法がなぜ生まれたのかをお話しします。
う まく呑み込めない状態を嚥下障害と言います。嚥下障害を放置すると肺炎になったり(誤嚥性肺炎)、窒息したりと命にかかわる出来事が起きやすくなります。 また肺炎や窒息はご家族やかかわる福祉関係者らに衝撃を与えます。食べさせたのが悪かったのではないか、食べさせ方が悪いのか、もっと飲みやすいものを提
供すればよかったと逃れがたい後悔と自責が渦巻くのです。嚥下障害は本人だけでなく周囲にも多大な影響を及ぼすのです。
私 が医師になって、1年目のはじめにまずつまずいたのが嚥下障害でした。うまく食べられていない人がいるのにどんな方法で何を召し上がっていただけばよいの か、診断する方法が決まっていないのです。医療を学ぶうちに、どこかによい方法を知っている人がいるのではないかと探し、多くの良い師匠に出会い、嚥下治
療を学ぶことができました。
嚥下治療を知ってみると、 対応方法が確立している嚥下障害の種類がまだ限られていて、嚥下障害のある人の中で数多くの人は十分に食べられる方法が見つかっていないのだともわかりま した。いろいろな先生方が嚥下治療を開発されている中で、私は市井に暮らす人たちの多くにみられるタイプ、のどの感覚が悪くなったり筋力が落ちたりして起
きる嚥下障害を何とかしたいと考えて研究していました。
2007 年のある日です。嚥下造影検査をしているときに、一側嚥下(のどの働きが左右で違うときによいほうののどを使うために悪いほうの喉をうえにして横たわった 姿勢。通常肩枕をして姿勢を整える)で食べられることを確認していました。すると、一緒に評価していた言語聴覚士が『完全に横を向いちゃえば(完全側臥
位)上になった手で自分で食べられませんかね』とアイデアを出してきました。それまで完全に横を向いて食べるという方法はどこでも提案されていませんでし たので、私はいったいのどにとっては有利なのかを考え始めました。するとものの数秒で明らかに有利であることに気が付いたのです。のどは横広で、肺との分
岐部(喉頭)はその真ん中あたりにあります。上を向いて寝ているよりも、肩枕で傾けるよりも、さらにしっかり横を向いたほうが食べ物が通過する道を喉頭か ら離せるではないか。そのときから完全側臥位法の原理を再確認し、嚥下治療を再構築する試みが始まりました。」
福村直毅